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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

08 その七 石の下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页

青空文庫

いったん帰宅して色々と検討したあげく、多分この屋敷内のどこかに金箱があるべきことを推定したのであろう。

こう気がつくと、主婦たるものの本能がムクムクと頭をもたげた。千代は既に東太の母であり、千頭家の主婦であった。安倍兆久の娘でもなく、天鬼の妹でもなかった。千代はキッと額をあげて父をマジマジと見すえて、

「お父様も情けないことを仰有いますね。私は千頭津右衛門の妻ではございませんか。主人が死んで一周忌もすまぬのに、三十五日、四十九日の法要もつとめずに、どうしてこの家がうごかれましょうか。女ばかりの私たちが戦乱が怖しいのは申すまでもございませんが、一周忌もすまぬうちにここを空き家にするぐらいなら、ここで泥棒に締め殺された方が本望でございます。東太や私や家屋敷が助かるよりも、ここを守って死に果てることを、亡き津右衛門も満足してくれるだろうと思います。もう二度とそのようなことを仰有って下さいますな」

気品あくまで高く、余言を許さぬ鋭さ。しかし兆久天鬼とてもオメオメ引き下りはしない。尚もしつこく食い下って数日を重ね、その日中は何食わぬフリをして屋敷内をくまなく調べている様子であったが、ついに目的を果さず、千代のリンリンたる気魄におされて、むなしく退却してしまった。