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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
08 その七 石の下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页
それじゃア、夜食でもこしらえてもらいましょう」
どこの碁打の家庭でも夜更けの夜食には馴れている。かねて用意の手打ウドンがポッポッと湯気をたてて運ばれる。
「甚八さん。おあがり」
「どうぞ、あついうちに召上れ」
と千代にも言われても、それらの声が耳につかないらしい。甚八は尚執念さりがたく、殺気走った目をこらして盤上を睨みつづけている。その隅が死んでは、とうてい足らないようだ。しかし、ほかに勝筋はないのか。津右衛門はすでに黒の勝筋なしと見極めているらしいが、それが口惜しくて投げられない。
津右衛門はドンブリをとりあげたが、そのドンブリを膝の上へ下し、一箸もつけずにだんだんうなだれた。次第に顔色が蒼ざめてきた。ジッとすくむように見えたが、ポロリとドンブリを落した。
「ウッ!」にわかに胸をかきむしり、前へつんのめると、エビ型にまるまって、虚空をつかみ、タタミをかきむしった。その場に、千代も女中も居合わしたので、甚八に毒殺のケンギがかからずにすんだようなものだ。こういう急変になると、当時の医学では、病死か毒死か見当がつかない。その場の状況、毒殺の原因の有無で、どっちかに定まるような怪しい医学だ。