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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

08 その七 石の下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页

青空文庫

その必要がなかったのである。川越へ再出発に一二日間があるから、いつものように慌てる必要がないのだ。

「気ぜわしいと、虎の顔は間が抜けるが、落着き払うと、一そう間が抜けて見えるぜ。珍しい顔だが、長生きはするなア」

海舟は悪血をとりながら、虎之介の面相をひやかしている。ちょッと推理になやんだせいだが、今やその悩みが解消したせいでもあるらしい。彼はナイフをおいて、懐紙できつく後頭部の血をしぼった。

「犯人は千代じゃアあるまい。千代はお茶のいれ役で、またそれを運ぶ役目だ。とうにきまった役柄だから、そのとき毒をもっては直ちに身の破滅となることが見えすいている。利巧者の千代が、そんなヘマをやることはあるまい。云うまでもなく千代は相当の碁の打ち手と新十郎が睨んだ通り、津右衛門が暗示したのは石の下だと知っていたのだ。だがそれを言っちゃア甚八を殺した動機ができるのさ。一人で生きる能のない東太を残して人殺しの罪をきたくない千代の思いは必死なのさ。知らぬ存ぜぬ、あくまで無罪を言い張りたいにきまってらアな。犯人は千代の兄、天鬼だぜ。彼こそは犯罪の鬼才にめぐまれ、血も涙もない強慾者だ。