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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

11 その十 冷笑鬼

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,522 字 · 46 页

青空文庫

お前さん方に何もあげるものがないが、このコヨリを一本ずつあげよう。コヨリのようにいろいろの役に立つものは珍しいな。下駄のハナオにもなるし、羽織のヒモにもなるし、魚のエラを通せば何匹もぶらさげることができて大きな紙もフロシキも使わずにすむ。紙やフロシキで魚をつつむと汁がにじみでて悪臭がうつッて困るものだが、たった一本のコヨリで都合よく魚をぶらさげて運ぶことができる。これをあげるから大事に使いなさい」

コヨリを二人のヒザの上へ一本ずつのせてやって、

「もう午ぢかいから、食事どきには早く帰るのが礼儀だね。礼儀をわきまえてなければ益々路頭に迷う」

路頭に迷ったわが子に一食を与えることも許さない。

「菓子屋を一軒ずつ廻って歩けば使ってくれるとこがあるはずだ。それをせずにここへくるのが心得ちがい。主家が没落したにせよ三食や四食のゼニぐらいは貰ったはずだろう」

とミネの涙ながらの懇願にも全くとりあわなかった。

なるほどそれで理窟は通っているようだ。正司は彼が云うように一軒ずつ菓子屋を廻って歩いて、玉屋の主人の口添えもあって、就職することができた。しかし子飼いからの店ではないから、居づらい事情が多くて、店から店へ転々として、三十にもなりながらまだ住みこみの一介の平職人。