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むかしのかじ

昔の火事

宮本 百合子

「改造」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,494 字 · 21 页

青空文庫

こんな皿は、こわれ易いんだからね。まだ上薬がかかってないだろ。大昔の皿はみんなこんなのさ。工業はまだすすんでいなかった証拠だよ。

一旦見てしまうと堪能すると見えて、同じ子供がくりかえして来るということは稀である。なかに一人、鞄をどこかへおいてから又やって来て、井上たちの引上げる頃までいる少年が、井上の目をひいた。君、何年? 五年。何ていうの? 辰太郎。この辰太郎は無口で、だんだん掘る仕事の手つだいもするようになった。かえりのバスの中で中学生がふっと井上に云った。あの辰太郎って子ね、何だか寂しそうな子ですね、僕そう感じるな。服装は大してわるくないし、お八ツ時分、井上が角の大福屋へ汁粉をのみにさそっても、余りついて来ない。

この辰太郎が猛之介の孫で、養子であった生みの父親は、財産のことで猛之介と大衝突して、七八年前家を出てしまっていることを知ったのは、もう夏に入ってからであった。

縮のシャツの背中を汗でじっとりにして、掘り初めの時分から見ると、すっかり日やけのした井上が、夏の日永を一刻も惜むようにして働いている。辰太郎が運動パンツに跣足でわきにくっついて、シャベルを動かしている。