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むかしのかじ

昔の火事

宮本 百合子

「改造」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,494 字 · 21 页

青空文庫

田の土、畑の土、それは金と汗のかたまりの土、往来の泥とはまるでちがう財産ということを由兵衛に子供のうちからきかされて育った。ひどく擲られるのは、いつもうっかり藁草履の底をこそげずに、畑から道へとび出したときであった。

時代が変って、草履の裏につく土さえ外へ持ち出さなかった心がけとは反対に、今は、ふっくりとした武蔵野の黒い土の厚みを、二重に剥がして、土からの儲けを考えるようになって来ている。猛之介はこの知慧については自分に満足を感じている。土地を売買するときには面積を云って厚みを云わないところに、猛之介の目がついて、今度昭和合金との間に話がはじまりかかると早速そこへ人夫を入れて、表面の土をならし一間ぐらいの深さにこそげとって、その下のかたい赭っぽい土のところで、一町歩売りわたしの契約をした。猛之介は、こりゃ双方仕合わせでした、と云った。あんたの方も重い機械を据えつけなさって、じき土台がめりこむような畑土じゃこまるだろうし。

こそげた土は、鮮人人夫が毎日働いて、敷地のずっと西端れの沢の近くの凹地へ運んだ。売れた土地はこのようにして地下げされ、売れない方の土地はこのようにして地上げされて、やがては買い手のつくようにされたのである。