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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

渡瀬の胸の中でいたずら者がむずむずし始めた。奥さんが、ごくわずかの間であったけれども、苦界というものに身を沈めていて、今年の始に新井田氏の後妻として買い上げられたのだという事実は渡瀬の心をよけい放埓にした。うんと翻弄してやろう……もしも冗談から駒が出たら――何かまうもんか、その時はその時のことだ……という万一の僥倖をも、心の奥底では度外視してはいなかった。

「図星をさされたね」

渡瀬はまたからからと笑って、酒に火照ってきた顔から、五分刈が八分ほどに延びた頭にかけて、むちゃくちゃに撫でまわした。

「ところが奥さん、あれは高根の花です。ピュリティーそのものなんです。さすがの僕もおぬいさんの前に出ると、慎みの心が無性に湧き上るんだから手がつけられない……そんなに笑っちゃだめですよ、奥さん、それはまったくの話です。……何、信用しない……それはひどいですよ、奥さん。僕なんざあとてもおぬいさんのマッチではない。マッチですか。マッチというと相方かな(これはしまったと思って、渡瀬は素早く奥さんの顔色を窺ったが、案外平気なので、おっかぶせて言葉を続けた)相手かな……相手になれないと諦める気ばかり先に立つのです。