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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

隣りの間で往診の支度をしていた母が、

「ぬいさん」

と言葉をかけた。おぬいはユニオンの第四読本からすぐ眼を放して、母のいる方に少し顔を向け気味にして、

「はい」

と答えたが、母はしばらく言葉をつがなかった。

「今日は渡瀬さんがいらっしゃる日ね」

やがてそういった。おぬいは母が何か胸に持ちながらものをいっているのをすぐ察することができた。

「あなたはあの方をどう思ってだえ」

おぬいがそうだと答えると、母はまたややしばらくしてからいった。

おぬいは変なことを尋ねられるとおもった。そして渡瀬さんに対する自分の考えをいおうとしているうちに、母は支度をすまして茶の間にはいってきた。いつものとおり地味すぎるような被布を着て、こげ茶のショールと診察用の器具を包んだ小さい風呂敷包とを、折り曲げた左の肘のところに上抱きにしていた。いっさいの香料を用いないで、綺麗さっぱりとした身だしなみは母にふさわしいものだった。母はストーヴの火具合を見てから、親しみ深くおぬいのそばに来て坐った。そして遊んでいる右の手でおぬいの羽織の衣紋がぬけかけているのを引き上げながら、

「どう思うの」