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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

不思議には思いながらも、しばらくたってから、ようやく顔を上げてみると、渡瀬さんは充血して、多少ぼんやりしたような顔つきで、おぬいの額ぎわをじっと見つめていたのだと知れた。おぬいは不思議にもそれを知ると本能的にはっと思った。渡瀬さんも日ごろの渡瀬さんに似合わず、少し慌てながら顔を紅くして、すぐに書物に眼を落したが、

「ええと、それは……どこでしたかね」

といいながら、やきもきと顔を書物の方につきだした。

おぬいはその時はからず母のいいおいていった言葉を思いだしていた。そして渡瀬さんに対して、恐ろしい不安を感じないではいられなくなった。渡瀬さんと向い合って人気のない家にいるのがたまらないほど無気味になった。おぬいは思わず「天にある父様」と念じながら(神様という言葉はきらいだった。父が亡くなってからは天にある父様という言葉がこの上もなくなつかしかった)、力でも求めるように、素早くあたりを見まわした。「もし私が知らずに渡瀬さんを誘惑しましたら、どうかどうかお許しくださいまし」

「正しい心がけで、そのほかは神様におまかせしておけば安心です」……その母の言葉、それがまた思いだされた。