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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

渡瀬さんは薪をくべると手をはたき合せながら机の向うに帰った。

「経験のないところに感動するってわけはないでしょう」

この二の句を聞くと、おぬいはあまりに押しつけがましいと思った。噂のとおり少し無遠慮すぎると思った。

「これはただそう思うだけでございますけれども、恋というものは恐ろしい悲しいもののように思います。私にもそんな時が来るとしたら、私は死にはしないかと、今から悲しゅうございます。だもんですから、ああいうお話を読みますと、つい自分のように感じてしまうのでございましょうか」

「あなたは実際、たとえば星野か園かに恋を感じたことはないのかなあ」

おぬいはもうこの上我慢がしていられなかった。母がいてくれさえすればと思った。口惜涙を抑えようとしても抑えることができなかった。そしてハンケチを取りだす暇もないので、両方の中指を眼がしらのところにあてて、俯向いたままじっと涙腺を押えていた。

渡瀬さんはしばらくぼんやりしていたが、きゅうに慌てはじめたようだった。

「悪かったおぬいさん。僕が悪かった。……僕はどうもあなたみたいな人を取りあつかったことがないものだから……失敬しました。