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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

たった一人になるとおぬいはほっと溜息が出た。何か自分が思いもかけない結果を渡瀬さんに与えたのではないかと思うと、自分というものが怖ろしいようだった。彼女の知らない力があって、ともすると願いもしないところに彼女を連れこんでいこうとするかにさえ感じられた。そういう時に父のいないのがこの上なく淋しかった。おぬいは障子を半ば締めたまま、こんこんと大降りになりだした往来の雪を、ぼんやりと瞬きもせずに眺めながら、渡瀬さんを送りだしたその姿勢から立ち上りえずにいた。

ややしばらくして、何という弱々しいことだと自分をたしなめて、おぬいは立ち上ると、障子を締め、その足でラムプを茶の間に運んで火をともした。時計はもう五時半近くになっていた。夕方の支度がおそくなりかけていた。

おぬいは大急ぎで書物をしまい、机を片づけ、台所に出て、白いエプロンを袂ごと胸高に締め、しばられた袂の中からようようの思いで襷をさぐりだすと、それをつむりに潜らせようとしたが、華やかなその色が、夕暗の中で痛いように眼に映った。おぬいは一度のばしたその襷を、ぐちゃぐちゃに丸めて、それを柱にあてがって顔を伏せると、誰のためにとも、誰にともなく祈りたい気持でいっぱいになった。