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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

*    *    *

その時清逸は茶の間に母といっしょにいたのだが、おせいの綿入を縫っていた母は針を置いて迎えに立っていった。清逸は膝の上に新井白石の「折焚く柴の記」を載せて読んでいた。年老いた父が今麦稈帽子を釘にひっかけている。十月になっても被りつづけている麦稈帽子、それは狐が化けたような色をしている。そしてそれは父が自分の家族のためにどれほど身をつめているかを人に見せびらかすシムボルなのだ。清逸はそれをまざまざと感ずることができた。そればかりではない。今日の父は用向きがまったく失敗に終ったこと、父が侮蔑だと思いこみそうなことを先方からいわれて胸を悪くして帰ってきたこと、それをも手に取るように感ずることができた。清逸にはその結果は前から分っていることだった。

わざとらしい咳払いを先立てて襖を開き、畳が腐りはしないかと思われるほど常住坐りっきりなその座になおると、顔じゅうをやたら無性に両手で擦り廻わして、「いやどうも」といった。それは父が何か軽い気分になった時いつでもいう言葉だ。しかしそれを今日はてれ隠しにいっている。

母が立ったついでにラムプを提げてはいってきた。