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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

清逸はややともすると読みかけている書物をばたっと取り落して眼がさめたりした。それは生れてからないことだった。

清逸は寝たまま含嗽をすると、頸に巻きつけている真綿の襟巻を外して、夜着を深く被った。そして眼をつぶって、じっと川音に耳をすました。そこから何んの割引もいらぬ静かな安息がひそやかに近づいてくるようにも思いながら。

その夜はしかし思うようには寝つかれなかった。彼の疲労が恢復したのかもしれなかった。あるいは神経がさらに鋭敏になり始めたのかもしれなかった。

ふと眼がさめた。清逸はやはりいつの間にか浅い眠りを眠っていたのだった。盗汗が軽く頸のあたりに出ているのを気持ち悪く手の平に感じた。

川音がしていた。

何時ごろだろうと思って彼はすぐ枕許のさらし木綿のカーテンに頭を突っこんで窓の外を覗いてみた。

珍らしく月夜だった。夜になると曇るので気づかずにいたが、もう九日ぐらいだろうかと思われる上弦というより左弦ともいうべきかなり肥った櫛形の月が、川向うの密生した木立の上二段ほどの所に昇っていた。月よりも遠く見える空の奥に、シルラス雲がほのかな銀色をして休らっていた。