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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

「まあ新井田の奥さんが」

と仰山にいった。

ガンベさんが取りなすように三十恰好に見える立派な奥さん風の婦人と西山さんとの間にいて、ほかの書生さんたちは少し輪を大きくしてそれを傍観していた。奥さんというのは西山さんに何か餞別物を渡そうとしているところだった。そこらにいる群衆の眼は申し合わせたように奥さんの方に吸い寄せられていた。

婆やも驚いておたけさんに尋ねた。

「あれはどなただなもし」

「あなた知らないの。あれがそら渡瀬さんのよく行く新井田さんの奥さんなのよ」

とおたけさんは奥さんから眼を放さない。重そうな黒縮緬の羽織が、撫で肩の円味をそのままに見せて、抜け上るような色白の襟足に、藤色の半襟がきちんとからみついて手絡も同じ色なのが映りよく似合っていた。着物の地や柄は婆やにはよく見えなかったが、袖裏に赤いものがつけてあるのはさだかに知れた。斜め後ろから見ただけでも珍らしく美しそうな人に思われた。

駅夫が鈴を鳴らして構内を歩きまわりはじめた。それとともに場内は一時にざわめきだして、人々はひとりでに浮足になった。婆やはもう新井田の奥さんどころではなかった。