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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

気丈な母は良人の病が不治だということを知ると、毎晩家事が片づいてから農学校の学生に来てもらって、作文、習字、生理学、英語というようなものを勉強し始めた。そして三月の後には区立病院の産婆養成所の入学試験に及第した。その名前が新聞に載せられた時、それを父に気づかれまいとして母が苦心したのを、おぬいは昨日のことのように思いだすことができる。

その父はいい父だった。少なくともおぬいにとっては汲みつくせない慈愛を恵んでくれた親だった。

「あれはどこからどこまであまり美しいから早死をしなければいいが」

そう父が母に言っているのを偸み聞きしたこともあった。そして病気がちなおぬいが加減でも悪くすると、自分の床の側におぬいの床を敷かせて、自分の病気は忘れたように検温から薬の世話まで他人手にはかけなかった。

それよりも何よりも、おぬいが父を思いだす時思いださずにはいられないのは、父が死ぬちょうど一週間前、突然おぬいに、部屋の中を一まわり歩いてみたいから肩を貸してくれといいだした時のことだった。おぬいももとより驚いたが、母はそれを思いもよらぬことだとさえいってとめて聴かなかった。