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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

……柿江は思わずそれを考えている自分の顔つきが、森村という鏡に映ってでもいるように、素早くその顔を窃みみた。しかし森村の顔は木彫のようだった。

「おい貴様この包を帰り途に白官舎に投げこんでおいてくれないか」

と何げない風にいいながら、柿江はぼろぼろになった自分の袴を脱いで、それに書物包みをくるみ始めた。森村は見向きもせずに前どおりな無表情な顔を眼の前の窓の鴨居あたりに向けたままで、

「これからまたどこかに行くんか」

とぼんやりいった。柿江は、

「うむ」

と事もなげに答えるつもりだったが、自分ながら悒鬱だと思われるような返事になっていた。

「そこにおいとけ」

ややしばらくして森村がこういった。

まだ生徒たちは帰りきらないで、廊下で取組合いをするものもあるし、玄関に五六人ずつかたまって、教師といっしょに帰ろうと待ちながら、大声でわめいているものもあるし、煤掃きのような音を立てて、教室の椅子卓を片づけているものもあった。柿江が戸外に出れば、「先生」と呼びかけて、取りすがってくる生徒が十四五人もいるのはわかりきっていた。柿江はそわそわした気分で、低い天井とすれすれにかけてある八角時計を見た。