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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
二人はいつの間にか制帽を懐ろの中にたくしこんでいた。昼間見たら垢光りがしているだろうと思われるような、厚織りの紺の暖簾を潜った。白官舎のとは反対に、新しくはあるけれども、踏むたびごとにしないきしむ階子段を登って、油じみと焼けこげだらけな畳の上に坐らせられた。眼をそむけたいほど淫らな感じのする女が現われて、べたべたと柿江の膝の上に乗りかからんばかりに横とんびに坐った。ガンベが何か大声で一人ではしゃいでいるうちに酒が出た。柿江は早く自分を忘れたいばかりに、さされる盃を受けつづけた。飲むというほど飲んだことのない酒はすぐ頭へとひどくこたえだした。眼の中が熱くなって、そこに映るものが不断とは変ってきた。こんな場合、当然起ってくべきはずの性慾はますます退縮して、ただわくわくするような興奮で身の内が火のように震えだした。そして時々氷が……それは言葉どおりに氷だった……氷の小さい塊が溶けながら喉許から胸の奥にと薄気味悪く流れ下った。
「どうだ、ありがたかろう」
床の正面に、半分枯れかかった樺色と白との野菊を生けて、駄菓子でこね上げたような花瓶のおいてあったのを、障子の隅におろしてしまって、その代りに自分の懐ろから制帽を取りだして恭しく飾りながら、ガンベが拝むような様子をしてこういったっけ。