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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
道路の左側は林檎園になっていて、おおかた葉の散りつくした林檎の木立が、高麗垣の上にうざうざするほど枝先を空に向けて立ち連なっていた。思いなしか、そのずっと先の方に恵庭の奇峰が夜目にもかすかに見やられるようだ。柿江にはその景色は親しましいものだった。彼がひとりで散策をする時、それはどこにでもいて彼を待ち設けている山だった。習慣として彼は家にいるより戸外にいる方が多かった。そして一人でいる方が多かった。そういう時にだけ柿江は朋輩たちの軽い軽侮から自由になって、自分で自分の評価をすることができるのだった。慣れすぎて、今は格別の感激の種にはならなかったけれども、それだけ札幌の自然は彼の心をよく知り抜いてくれていた。
「そうだ、もう帰ろう」
柿江はかなり強い決心をもって、西の方を向いてゆるゆると歩みを続けた。そして道路の右側にはなるべく眼をやるまいとした。
しかしそれはできない相談だった。窓という窓には眼隠しの板が張ってあって、何軒となく立ちならんでいる妓楼は、ただ真黒なものの高低の連なりにすぎないけれども、そのどの家からも、女のはしゃぎきった、すさんだ声が手に取るように聞こえていた。