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えいがのもつぶんぽう
映画のもつ文法
中井 正一
「読書春秋」1950(昭和25)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,433 字 · 5 页
青い青い空、嵐をはらむ雲を背景として幾十の船団が、ドイツ潜航艇の見えざる襲撃に対して、指令と応答、あるいは共に、あるいは孤独に、新しい詩を織りなしていくのである。
しかも、この映画には女士官が電話で指令するただ一カット出るだけで、色恋をすっかり画面からぬぐうかのように消し去っていた。また、難破船に出てくる人々は、ほんとの船員たちであって、俳優は用いなかった。はたして、かかるものが、これまでの美学で芸術といえるだろうか。(興行成績はそれにもかかわらず、日劇のレコードを破っている。)
カントからリップス(一九一四年死)までの美学は、主客合一といったような、個人が物を見、個人が語り、そして個人が思い悩み、苦しむところのものを個人が描くところのものである。
しかるに映画では、うつすものはレンズであり、描くものはフィルムである。物質が見、描くことに人間が手を貸すのである。横山大観が思いをこらして描くところの過程とは、はるかに異なっているのである。
さらに困ることは、これを創るにあたって決して一人の天才が創るのではなくして、監督のスタッフ、カメラマンのスタッフ、装置のスタッフ、やがては映画株式会社の重役陣のスタッフのどれもが欠けることのできない創作陣のスタッフなのである。