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えいがざっかん(ご)
映画雑感(Ⅴ)
寺田 寅彦
「映画と演芸」1935(昭和10)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,204 字 · 5 页
実際の競馬ではああした番狂わせにはめったに出くわせないであろうし、また観客はカメラのようにあんなに勝手に位置を変えて自由に見どころを得られるはずはないのである。これだけでも映画というものの独特な使命が明白に指示されているように思う。
五 すみれ娘
日本の近代映画でも、PCLの提供するものの中には色々な点で有望な進歩の動向を示しているものがあるように思う。この「すみれ娘」などもその一例である。あくどい蒼蠅さがわりに少なくて軽快な俳諧といったようなものが塩梅されているようである。例えばドライヴの途上に出て来るハイカラな杣や杭打ちの夫婦のスケッチなどがそれである。「野羊の居る風景」などもそれである。ただ残念に思うのは、外国の多くの実例と比較したときに感ぜられる音楽の容量の乏しさと、高く力強く盛り上がって来るような加速的構成の不足である。もう一層の深い研究が望ましいと思われる。
主役のすみれ娘はオリジナルな愛嬌と頭脳の持主らしく随所に一種の俳諧を発揮しているようである。若返りの博士はからだでする表情をもう少し腹の中へしまい込んだ方がこの映画の俳諧的雰囲気に相応わしいのでないかと思われた。