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はるのしゅぜんじ

春の修善寺

岡本 綺堂

「読売新聞」1918(大正7)年1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,749 字 · 8 页

青空文庫

墓を拝して帰ろうとしてふと見かえると、入口の太い柱のそばに一つの箱が立っていた。箱の正面には「将軍源頼家おみくじ」と書いてあった。その傍の小さい穴の口には「一銭銅貨を入れると出ます」と書き添えてあった。

源氏の将軍が預言者であったか、売卜者であったか、わたしは知らない。しかしこの町の人たちは、果して頼家公に霊あるものとしてこういうものを設けたのであろうか、あるいは湯治客の一種の慰みとして設けたのであろうか。わたしは試みに一銭銅貨を入れてみると、からからという音がして、下の口から小さく封じた活版刷の御神籤が出た。あけて見ると、第五番凶とあった。わたしはそれが当然だと思った。将軍にもし霊あらば、どの御神籤にもみんな凶が出るに相違ないと思った。

修禅寺はいつ詣っても感じのよい御寺である。寺といえばとかくに薄暗い湿っぽい感じがするものであるが、この御寺ばかりは高いところに在って、東南の日を一面にうけて、いかにも明るい爽かな感じをあたえるのがかえって雄大荘厳の趣を示している。衆生をじめじめした暗い穴へ引摺ってゆくのでなくて、赫灼たる光明を高く仰がしめるというような趣がいかにも尊げにみえる。