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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
大袈裟に言えば、私たち二人さしむかいで、一夜をしみじみ語り明かしたのである。もとから私は、どろぼうという種属の人間に、馴れ親んでいるわけではない。冗談ではない。全く、生れて、はじめて、どろぼうという者を見たのである。火事は、中学校四年生のときに、はっきり一ぶしじゅうを見とどけたことがあるけれども、どろぼうは、はじめてなのである。火事は、あれも不思議なものである。私のお隣りの家が焼けているのだけれど、私は、どういうものか、ぼんやりして、二階の窓に頬杖ついて、うっとり見ていた。秋の終りの、朝のことである。手にとるようによく見える、というが、そのときには、実際、お隣りの家の燃えている軒と、私の頬杖ついている窓縁とは、二間と離れていず、やがてお隣りの軒先の柿の木にさえ火が燃え移って、柿の枯葉が、しゃあと涼しい音たてて燃えては黒くちりちり縮み、その燃えている柿の一枝が、私の居る二階の窓から、ほんとうに、ちょっと手を伸ばせば、折り取れるところに在って、それこそ咫尺の間に於いて私は、火事を見ていたのである。軒が燃え出すまでの、焔の順序が面白かった。はじめ軒端を伝って、ちょろちょろ、まるで鼠のように、青白い焔が走って、のこぎりの歯の形で、三角の小さい焔が一列に並んでぽっと、ガス燈が灯るように軒端に灯って、それから、ふっと