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はるのとうぞく

春の盗賊

太宰 治

「文芸日本」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页

青空文庫

あった。芸術の世界も、そんなものだと思っていた。お恥かしいことである。

私の悪徳は、みんな贋物だ。告白しなければ、なるまい。身振りだけである。まことは、小心翼々の、甘い弱い、そうして多少、頭の鈍い、酒でも飲まなければ、ろくろく人の顔も正視できない、謂わば、おどおどした劣った子である。こいつが、アレキサンダア・デュマの大ロマンスを読んで熱狂し、血相かえて書斎から飛び出し、友を選ばばダルタニアンと、絶叫して酒場に躍り込んだようなものなのだから、たまらない。めちゃめちゃである。まさしく、命からがらであった。

同じ失敗を二度繰りかえすやつは、ばかである。身のほど知らぬ倨傲である。こんどは私も用心した。鎧かぶとに身を固めた。二枚も三枚も、鎧を着た。固め過ぎた。動けなくなったのである。部屋から一歩も出なかった。癈人、と或る見舞客が、うっかり口を滑らしたのを聞いて、流石に、いやな気がした。

いまは、素裸にサンダル、かなり丈夫の楯を一つ持っている。私は、いまは、世評を警戒している。「私は嘗つて民衆に対してどんな罪を犯したろうか。けれども、いまでは、すっかり民衆の友でないと言われている。