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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
読者にも、おぼえが無いか。私は自身の思わぬ手柄に、たしかに逆上せてしまったのである。
「さ、手を離してあげる。いま、雨戸をあけてあげますからね。」いったい、どんな気で、そんな変調子のことを言い出したものか、あとでいくら考えてみても、その理由は、判明しなかった。私は、そのときは、自分自身を落ちついている、と思っていた。確乎たる自信が、あって、もっともらしい顔をして、おごそかな声で、そう言ったつもりなのであるが、いま考えてみると、どうしても普通でない。謂わば、泰然と腰を抜かしている類かも知れなかった。
雨戸をあけ、
「さ、はいりたまえ。」いよいよ、いけなかった。たしかに私は、あの、悠然と顛倒していた組に、ちがいなかった。江戸の小咄にも、あるではないか。富籤が当って、一家狂喜している様を、あるじ、あさましがり、何ほどのこともないさ、たかが千両、どれ銭湯へでも行って、のんびりして来ようか、と言い澄まして、銭湯の、湯槽にひたって、ふと気がつくと、足袋をはいていた。まさしく、私もその類であった。ほんとうに、それにちがいなかった。いい気になって、どろぼうを、自分からすすめて家にいれてしまった。