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はるのとうぞく

春の盗賊

太宰 治

「文芸日本」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页

青空文庫

死んだほうがいい。借銭のつらさは、骨のずいまで、しみている。死んでも、借金したくない。それゆえ私は、このごろ、とても、けちに、けちに暮している。友人と遊ぶときでも、敢然と、割勘を主張して、ひそかに軽蔑を買っている様子である。人と行楽を共にする場合でも、決して他人の切符までは、買ってあげない。自分ひとりの切符を、さっさと買ってすましている。下駄ひとつ買うのにも、ひとつきまえから、研究し、ほうぼうの飾窓を覗いてみて、値段の比較をして、それから眼をつぶって大決意を以って、下駄の購買を実行する。下駄のながもちする履きかたも、私は、ちゃんと知っている。路を行くときは、きわめてゆっくり歩く。それは、着物の裾まわしのすり切れないよう、用心している形なのである。人は、私の守銭奴ぶりに、呆れて、憫笑をもらしているかも知れないけれど、私は、ちっとも恥じていない。私は、無理をしたくないのだ。このごろは、作品の掲載以前に、雑誌社へお金をねだることも、決してしない。なるべく、知らぬふりをしている。くれなければ、くれないでいい。あとは、書かぬだけだ。世の中は、私にそれを教えた。