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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
僕の負けさ。どうも、不言実行には、かなわない。」私は、しきりと味気なかった。
「金を出せ。」また、言った。
私は、声のほうへ、ふりむいて、
「ばか! いい加減にしろ! 僕は、ほんとうに怒るぞ。僕は、なんでも知っている。君みたいな奴と、あんまり、あと腐りの縁を持ちたくないから、僕は、さっきから、ばかみたいに、いい加減にとぼけていたのだ。僕は、すっかり知っている。君は、女だ。君は、きょうの夕方、その窓の外で、パリパリと低い音たてて傘をひらいた。あの、しのぶような音は、絶対に女性特有のものだ。男が傘をひらくときは、どんなに静かにひらいても、あんな音は、できないのだ。君は、夕方あらかじめ、僕の家の様子を、内偵しに来たのだ。それにちがいない。君は、僕の家のぐるりをも、細密に偵察した。お隣りの、あのよく吠える犬が、今夜に限って、ちっとも吠えないところを見れば、君は、ゆうべ、あの犬に毒饅頭を食わせてやったにちがいない。むごいことをする奴だ。僕は、ゆうべ、塀の上から覗きこんでいる君の顔を、ちゃんと見て知っている。忘れるものか。僕は、偉い絵かきだから、君の顔を、そのまま、いつでも画いて見せることができる。