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チュンタオ

春桃

宮本 百合子

「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,868 字 · 22 页

青空文庫

一人の作家が、時流におされて、或る程度日常生活を世俗的に膨脹させてしまうと、そのふくらんだ日暮しを、ころがしてゆくために、執筆は稼ぎとならざるを得ず、稼ぎともなれば、注文に敏感ならざるを得ない。

戦時中、日本の文学者たちが示したおどろくべき文学精神の喪失は、日本の野蛮な権力による文化圧殺の結果として見られるものであるけれども、兇悪な権力が出版企業と結合して、薄弱な日本文化・文学を底から掘りかえして来た過程は、惨憺たるものがある。

「春桃」一巻は、私たち日本の作家に、それらの事情について思いをめぐらせずにはおかない迫力をもっている。

中国の文化はまだ甚しく不均衡で、民衆の文盲率は高く、文章によって生計を保ちがたい状態かもしれない。出版ということは、利潤追求の手段となっていない程度であるかもしれない。しかし、文化のその状態は「春桃」に集められた作家たちの心に、食う食わぬをぬきにした創作の誠意を湧き立たせているように見える。

みずから山河巨大な中国に生れ合わした人民の一人として、中国の民衆生活を衷心から愛し、おかれている苦渋の生活を哀惜し、その未来の運命の発展に対して限りない関心をもっている。