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しゅんすいとさんば
春水と三馬
桑木 厳翼
「図書」岩波書店、1939(昭和14)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,059 字 · 9 页
其文章には、
頃は冬の初にて日なたほしき時分なりしが、或日蟻穴より出て、たくはへの餌食を干して居る所へ、あなたの木の枝より蝉一つとび来つて蟻に向ひ、さて/\其許は冬枯の時分まで餌食の貯蓄あるはまことに羨しきことなり、我にも少し分けて下さらぬか、といへば、蟻答へていふやう、蝉殿には春夏の営みには何事をなさるゝや、といへば、蝉答へて夏の秋の営みとてはたゞ木のうらに歌ひ暮す許りなれども、よの蝉に劣らじと音曲にのみ遊び居る故、他に営みとてもなしといへば、蟻答へて、さらば今とても歌ひたまはぬぞ、餌食を分けくれよなどゝは、余りに卑しくて、蝉殿の初めに歌ひ暮されしにも似合ぬことなり、といひて穴に入りぬ。其の如く人の世にあるとも、我が力の及ぶほどは世のことを営むべきなり、其身豊かなる時つゞまやかにして暮さねば、貧しうなりて悔ゆるとも蝉の餌食なきにかはることなし。
一見した所毫も翻訳の面影がないのみならず、其の挿絵の工合などから全然日本の田園生活を連想させるようになって居る。随て又一方には余りに戯作風になって原文の風韻を伝えない憾みはあるが、元来為永式教訓物であるから、寧ろ其所に特色もあるのであろう。