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しゅんもう
春盲
豊島 与志雄
「人間」1951(昭和26)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页
美津子も憂欝な眼色になった。
同じ学校に勤めてる同僚として、二人は愛し合ったのである。道徳堅固を旨とする師範出の教師が少くなってる現在では、そのことはまあ構わないとしても、なんだかすっきりしない気持ちがあった。仲間うちにも薄々は知れ渡っていた。だが、勉強、勉強、手を取り合って勉強しよう。それが最初の誓いだった。山田にも美津子にも、大きな研究のテーマがあった。春の休みになって、暇な時間も多くなった。然しそれらのこと、すべて、ちょっと来いの影で蔽われてしまったのだ。
影の中から、いろんな物音が聞えてくる。天井裏に、ギーイ、ギーイと、風の音がする。夜中の街路に、こっとりこっとりと、駄馬の歩く足音がする。どこか近くに、ドン、ドン、ドン、ドンと、太鼓を叩く音がする。それらが山田の精神を囚えて、狭い窮屈な世界に縮めあげてゆく。
山田は溜息をつくことが多くなった。欠伸をすることも多くなった。だが、それだけのことさえ面倒なほど、気がめいってしまう日もあった。突然陽が陰ってしまうような工合に、一切のことが嫌になるのである。意力も気力も、食慾さえも、すっかり無くなって、ただどこかのすみっこに息をひそめてじっとしていたい気分が、濃く深く身内に立ち罩める。