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しゅんもう
春盲
豊島 与志雄
「人間」1951(昭和26)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页
「なにをしていらしたの。」
いつも同じ挨拶だ。彼はにやりと無意味に笑った。
柱掛けの一輪※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)しに、もう蕾の開きかけた桜の一枝が投げ込んであった。山田はそれをぼんやり眺めた。
「もう花もじきですわね。青葉もじきですわね。」
「ええ。」
「花はどうでもいいけれど、新緑を見にちょっと旅がしたいわ。」
「そう。」
「新緑を見に、一泊か二泊、どこかへ連れていって下さると、お約束だったでしょう。」
「ええ。」
「ほんとに連れていって下さるの。」
「ええ。」
「いつ。」
「ええ。」
「それとも、旅はお嫌なの。」
「ええ。」
「はっきりしてよ。連れていって下さるか、下さらないか、どちらですの。」
「ええ。」
「わたしほんとに行きたいわ。新緑を眺めて、一日か二日、ゆっくり考えたら、わたしたちの前途も、ほんとに開けてくるような気がするの。だから、行きましょうよ。」
「ええ。」
「いつにしましょうか。わたしの方はいつでも宜しいの。」
「ええ。」
美津子はしばらく口を噤んだ。
「あ、分った。今日は、あなたの陽が陰ってるのね。」
「そうですよ。陽が陰ってる時は、僕は誰にも逢いたくないし、誰とも口を利きたくないんです。