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しゅんもう

春盲

豊島 与志雄

「人間」1951(昭和26)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页

青空文庫

突然、感じが変った。もう今迄の美津子ではなかった。ちょっと来いの彼女ではなかった。なんだか他人のようでもあり、ひどく親身なひとのようでもあった。酔っ払らって、駄々をこねる者ではなく、心から寄りかかって来てるひとのようだった。人間としての愛情が、情慾の滓を洗い去ったかのようだった。

「大丈夫ですか。」

返事はなく、彼女はかすかに頷いた。

「どこか痛めましたか。」

それにも返事はなく、彼女はかすかに頭を振った。

「安心していらっしゃい。僕がついててあげます。いつまでもついててあげます。」

肩の上に、彼女は頭までもたせかけてきた。毛先だけを軽く縮らせてる髪から、香油の香りがした。山田は彼女を支えてる手先に、親愛の力をこめた。月の光りはなく、朧ろな街路だった。