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しょうわのじゅうよねんかん
昭和の十四年間
宮本 百合子
「日本文学入門」日本評論社、1940(昭和15)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,356 字 · 69 页
顧れば昭和九年「不安の文学」がいわれた時代、日本文学は歴史的な自身の底を意識したのであったが、それは何といっても文学精神の課題に於てであった。更に二年後の衝撃的な事件は、文化の危機を一般の問題として自覚させた。この時に到って作家の身辺に迫った一つの空気は前の二つの経験よりはもっとむきだしの形で生存の問題にも拘るものとして現れた。一つの息を呑んだような暗い緊張が漲ったのである。
石川達三の小説が軍事的な意味から忌諱に触れたのもこの年の始めであった。文学のこととしてみれば、その作品は、当時の文学精神を強く支配し始めていた所謂意欲的な創作意図の一典型としてみられる性質の作品であった。「蒼氓」をもって現れたこの作者は、その小説でまだ何人も試みなかった「生きている兵隊」を描き出そうとしたのであろうが、作品の現実は、それとは逆に如何にも文壇的野望とでもいうようなものの横溢したものとなっていた。作者はその一二年来文学及び一般の文化人の間で論議されながら時代的の混迷に陥って思想的成長の出口を見失っていた知性の問題、科学性の問題、人間性の問題などを作品の意図的主題としてはっきりした計画のもとに携帯して現地へ赴いた。