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ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ

時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ

寺田 寅彦

「理学会」1917(大正6)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,111 字 · 9 页

青空文庫

これはこの時計の不便な点であって同時にすぐれた点である。ガス体の分子やエレクトロンの集団あるいは光束の集合場において各個部分の状態を論ぜんとしても普通の「時」を使う力学は役に立たなくなる場合がある。そういう場合にこのエントロピーのありがたみが始めて明白になって来るのである。

かように、エントロピーの役に立つ場合には、必ずそこにいわゆる「分子的に混乱した(molekular ungeordnet)系」がある。分子やエレクトロンの数が有限である間はエントロピーは問題にならず、変化は単義的で可逆であるが、これが無限になって力学が無能となる時に、始めてエントロピーが出て来る。ボルツマンがこのような混乱系の内部の排置の公算をエントロピーと結びつけたのは非常な卓見で物理学史上の大偉業であった。プランクはさらにこれを無限な光束の集団に拡張して有名な輻射の方則を得たのは第二の進歩であった。すなわち系の複雑さが完全に複雑になれば統計という事が成り立ち、公算というものが数量的に確定したものになる。そして系の変化はその状態の公算の大なるほうへ大なるほうへと進むという事が、すなわちエントロピーの増大という事と同義になるのである。