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とけい
時計
宮本 百合子
「ペン」1937(昭和12)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,956 字 · 8 页
その時計のことなど跡白波となってしまうであろうと思った者の気持のいきさつが、にくらしいのである。
一九三五年の二月十三日、私の誕生日の祝いに、父が精工社の柱時計を買ってくれた。これは私が自分からたのんだものであった。父の家の台所に美人の絵のついたボンボン時計がかかっていて、それは私の生れる前からのものであった。柱時計なら、なくなることもないであろう。そう思って、私は柱時計をたのんだ。父はどちらかというと、ごくありふれた形の十円内外のものをくれた。それは上落合に私が独り暮していた家の柱にかかって働いていたが、五月の或る朝、私のところへ二人の男が来て、そのまま私をその家から連出した。後ひきつづいた一年の留守の間に、その柱時計は、私のいない跡の家をとりかたづけてくれた友達の家の柱にかけられていた。
本年の一月三十日に、この柱時計をくれた父は没した。
〔一九三七年二月〕