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ばんか
晩夏
堀 辰雄
「婦人公論」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页
そして町を引っ返して往きながら、ふいといま頃は森のなかの小屋で風呂の火でも焚きつけているだろう妻の姿を浮べた。なんだか急に淋しくなった。このまま二三日何処かへちょっと旅行に出て、それから戻って来たら又こんな気もちも落着くだろうと思いながら、丁度店の主人が一人で横浜へ引き上げるため最後の荷作りをしている或る運動具店の前を通りすがりに、ひょいとズックの手提鞄のようなものを目に入れて、ずかずかと入っていって、突嗟に旅行の決心をして、それを買い求めた。それはラケットの入るようになった鞄だった。なんでもいいから、失くしたボストン・バッグの代りに旅行に携えてゆくつもりだった。……
そんな急な思いつきで、妻と二人で、旅に出て来たのだった。最初は、志賀高原、戸隠山、野尻湖なんぞとまわれるだけまわって、軽井沢ももう倦きたので、来年の夏を過ごすところを今から物色しておこうと思った。だが、何せ、疲れやすい私の事だから、先ず一番楽なコオスをと思って、野尻湖に来た。――どうも外人の跡ばかり追っかけているようで、気が引けるが、あいつらの見つけ出すものには棄て難い味がある。人のあまり知らないような山奥から不思議に日本離れした風景を捜し出してくるようだが、それは長く本国から離れている彼等のどうにもこうにもしようのないような郷愁からかも