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ばんか

晩夏

堀 辰雄

「婦人公論」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页

青空文庫

近在の猶太人等がそれを買いとって、その幹には呪詛の詞が銘せられてあった。)或る雪のクリスマスの夜、その村に一人の浮浪人がやって来る。それはヨハンのなれの果てらしかった。しばらく村の人達からいたわられて暮らしていたが、或る日、又ゆくえ知れずになってしまう。森のなかの例の※(「木+無」、第3水準1-86-12)の木に彼が縊死体となって発見せられたのはそれから間もなくの事だった。彼は実はフリイドリッヒだったという噂が立ちはじめる。――その※(「木+無」、第3水準1-86-12)の木に猶太人等の銘した次の詞がその物語の最後を結んでいる。――「此処に汝の近づく時は、嘗て汝が我に為せし事を汝は汝自身に為さん。」

漸っと十一時近くにそれを読み了えて、手水をしに下りて往くと、丁度例の娘達が外から帰って来たところだった。いま時分まで何処をうろついていたのだろうと、訝しそうに二人が靴を脱ごうとしているところをちらりと見た。二人はそういう私に気づいたようだったが、ポロシャツの方はさあらぬ顔をして靴を脱いでいた。が、もう一人の薔薇色の方は私をなんだかこわい目つきをして見上げた。