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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

そうして更に驚くべき事には、その服も帽子も、オリーブ色の雨外套も、染料の香気がまだプンプンしているらしい仕立卸しで、硝子のように光っているエナメル靴の踵までも、たった今土を踏んだばかりのように一点の汚れも留めていない事であった。

私は少年の異様に白い顔と、この服装とをモウ一度見上げ見下した。これはどこかの洋服屋の飾窓の中に在る蝋人形がそのまま抜け出して来て、ここに立っているのではないか……とあられもない事まで疑った。けれどもその黒く霑んだ瞳と、心持ち微笑を含んだ唇が明かに私のこうした妄想を裏切っている事を認めない訳に行かなかった。

……不思議だ……わからない……。

私がここまでこの少年に就いて観察して来たのはほんの二三秒ばかりの間の事であった。こうして二十八の年から四十九歳の今日まで警視庁に奉職して、あらゆる難問題を解決して、鬼狭山とまで謳われた私の眼力は、この少年の五尺二寸ばかりの身体を眼の前に置きながら、遂に何等の捕えどころも発見し得なかった。僅かに発見し得たものは皆、驚きと感心の材料になるばかりであった。

……一体この少年は何者であろう。

……外国人か、日本人か、それとも混血児か。