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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
私は落胆してしまった。
一たい今日の事件は手がかりが早く付き過ぎていて、判断の材料が複雑多岐を極め過ぎている。だからこんなに迷うのだ。……だからどっちにしても女を捕まえさえすれば見当が付く事と思って、彼のカフェーでボーイの話を聞いているうちから、女が犯人でないかも知れないと気付いていたにも拘らず、そのままにして、志免警部の活躍に一任しておいたのであったが……。
遣り直し……遣り直し……。
読者は嘸かし自烈たいであろう。私もうんざりしてしまった。しかし一人の絶世の美人が、貞烈無比になるか、極悪無道になるか、絞首台に登るか登らぬかの境目だから、今一度辛棒して考え直さなければならぬ。苟くも法律の執行官たるものが、こんな無責任なだらしのない事でどうする……と自分で自分の心を睨み付けながらそろそろと歩度を緩めた。そうして全然別の方向からこの事件を観察すべく、鼻の先の一尺ばかりの空間に、全身の注意力を集中し初めた。
すべて探偵術のイロハであって、同時にその奥義となっている秘訣は、事件の表面に現われた矛盾を突込んで行く事である。これは強ちに探偵術ばかりでなく、凡ての研究的発見は皆そうだと云っても差支ない位で、高尚なところでは天文学者が遊星の運動の矛盾から割出して新しい遊星を発見し、生物学者が動植物の分布の矛盾から推理