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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
その瞬間に私は思った。これ位軽快な車はタクシーの中にも余りあるまい。今たしかに三十五哩は出ている……と……その中に志免刑事が口を利き出した。
「いや。非道い眼に会ったんです。私はタイプライターのリボンを手繰るのが一番早道と思いましたので、自動車で丸善から銀座を一通り調べましたが、その途中で一寸電話をかけて、集まった報告を聞いて見ますと、女が市ケ谷の方向に消えたというのです。そこで今度は市ケ谷近くの四谷の通りから神楽坂、神田方面のタイプライター屋を当る考えで、公園前の通りを引返して来ますと、丁度今の公園前の交叉点で、この三五八八の幌とすれ違ったのです。運転手はやはりこの運転手でしたが、すれ違いざまに見ますと、乗っているのは黒い帽子を冠って藍色の洋服を着たすてきな美人なのです。私は夢中になって自転車で追っかけたのですが、やっとここ(参謀本部前)まで来た時にはもう、どこへ行ったか判らなくなってしまったのです。
私はそれから直ぐに数寄屋橋に引っ返して三五八八の車を当ってみましたら、その車はたしか一時間ばかり前に電話がかかって、麹町の方へ出て行った。しかしもう帰って来るだろう。