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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「うむ。そうしてくれ」

と云い棄てて私は門を這入った。

家は旧式赤煉瓦造りの天井の高い平屋建で、狭い門口や縦長い窓口には蔦蔓が一面にまつわり附いていた。その窓の上にある丸い息抜窓に色硝子が嵌めてあるところを見ると昔は教会だったに違いない。私は永年東京に居るお蔭で、到る処の町々の眼に付く建物は大抵記憶しているつもりであるが、この家は今まで全く気が付かなかった。それくらい陰気な、眼に付きにくい建物であった。

私は故意と中へ這入らずに、万一の用心のつもりで門の処に張り込んだまま待っていた。そのうちに頭の上の高い高いポプラの梢から黄色い枯れ葉が引っきりなしに落ちて来た。予審判事の乗っている自動車はまだ来ない。家の中にも何の音も聞えず、予期したような活劇も起りそうにない気配である。

私はあんまり様子が変だから表の扉を開いて中に這入ってみた。見ると内部はがらんとした板張りで埃だらけの共同椅子が十四五ほど左右に並んでいる。正面には祭壇があって真鍮の蝋燭立てが並んでいるが十字架はない。その代り左手の壁に聖母マリアの像と、それから右手に基督が十字架にかかっている図が架けてある。