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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「いかにも……」
「これには全く一ぱい喰いましたね。やはり樫尾じゃなかったのか。只の運転手だったのかと思い思い手紙を読んでしまった訳です」
「成る程……ご尤もです」
「ところがです……手紙を読んでしまうと同時に気付いた事は、これだけの長文の手紙をタイプライターで叩き出すには、いくら慣れた手でも二十分はかかる筈です。ところで志免警部が、あの自動車を見付けて、追跡して帰って、自働電話に出ていた私と打合わせを終る迄の時間を十分と見ます。そうして私が日比谷から警視庁に帰って自動車に乗る迄の最少限の十分間を加えると丁度二十分となりますが、一方に女の乗った三五八八の自動車が三宅坂を登ってこの教会に到着する迄の時間は、私共が同じ自動車で同じ距離を走った時間と差引いて差引零になるとしても、女の云う逃走用の時間の八分間を前の二十分の余裕から差し引けば、最大限女の保有し得る時間は十二分間となります。実はそれだけの時間は残らないものと見るのが常識的ですが、たとい、それだけの余裕があったと仮定しても、たった十二分間で、この手紙を打ち終ることは不可能と見なければなりません」
「そうですなあ……一々御尤もです」