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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

私はそう気付くと同時にハッとした。そうして眼の前に空しく並んだ四つの皿をジイーと睨み付けた。

その時にボーイは横柄な態度で云った。

「さっき表を通った方が、貴方に渡してくれと云ったんです。……ですけど、ちょうどお寝みでしたから待っていたんです」

その言葉が終るか終らないかに私は椅子を蹴って立ち上った。ボーイはその剣幕に驚いて一寸後退りをしたが、魘えた眼付きをして私を見上げた。

「それはいつ頃だ」

「一時間……二時間ぐらい前です」

「どんな人間だ……」

「……よく……わかりません。俥の幌の中から差し出したんですから……けれども何でも若い女の方のようでした」

「何と云った」

「エ……?」

「そいつが何と云った」

「二階の窓のすぐ側の西側の隅っ子の卓子に灰色の外套を着て、腰をかけて居眠りをしている紳士の方に差上げてくれと……」

「それだけか」

「ハイ……」

私は窓の外を見た。私の姿は窓の外から見えないようになっている。

「俥の番号は記憶えているか」

「よくわかりませんでした」

「どっちへ行った」

「新橋の方へ……」

私は紫のハンカチを新聞紙と一緒に内ポケットへ突込んで、机の上に五十銭玉を五つ投げ出した。