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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

……そこへぱっと黒い影が障子を横切る。女ははっと思う。夢のシャボン玉がふっと消える。その下から客人が来る……という第六感がまざまざと現われる。そこで女は思わず云う……

「あれ鳥影がさした。誰か来るような気がする」

と……。けれども女は「第六感」というものが人間にある事を知らないから、すぐに平生の常識に立ち帰って、

「……けども家の人が今ごろ自宅に居ないのは誰でも知っている筈だ。あんまり当てにはならない」

なんかと思い消してしまう。しかし女の第六感は承知しない。矢張り何だか気になるから縫物を止して、それとなく茶器なぞを拭いていると、思いもかけぬ人が表口から、

「御免下さい。御無沙汰しました」

と這入って来る。

「まあ。矢っ張り本当だったわよ」

と女は思う。

然らば吾々の持っている職業的な第六感の動き方はどうかというと、これとは全く正反対である。神経を磨き澄まし、精神を張り切って、眼にも見えず、耳にも聞えない或る事を考え詰めている時に電光のように閃めき出すもので、その鋭くて、早くて、確かな事はとても無線電波なぞの及ぶものでない。吾ながら驚く程沢山の事実をほんの一瞬間に感じさせたり、又は遠方で起った仕事の手違いを的確に予知させたりするものである。