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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

たった今気がついた左右の出入口の、褐色ゴブラン織りの垂れ幕は、青ペンキ塗りの粗末な扉を隠すためである。壁際の大机は今まであったものだが、室の真中の丸卓子も、私が実験室で使っていた顕微鏡台ではないか。

卓上電燈も笠こそ変っておれ、私が六七年前に古道具屋から提げて来たもので、百燭の青電球も実験室備え付のものに相違ない。本立や書物も同様で、椅子に至ってはただ縮緬の蔽いが……しかも寸法の合わないものが掛かっているだけで、中味は昔のままの剥げちょろけた古物に違いないのである。只そんなものが、色々の贅沢な装飾品で、如何にも巧みに釣合を取られているからちょっと気が付かないので、そのためにこれだけは昔のまま、室の隅に置いてある火の気のない瓦斯ストーブまでも引っ立って、勿体らしいものに見えているに過ぎないのである。

その室のまん中の丸卓子の上に唯一つ上を向いた赤絵の珈琲茶碗には、銀の匙と角砂糖が添えられて、細い糸のような湯気が仄かに立ち昇っている。そのこちら側の肘掛椅子に、最前の女優髷の女が被布を脱いで、小米桜を裾模様した華やかな錦紗縮緬の振袖と古代更紗の帯とを見せながら向うむきに腰をかけている。