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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

……その素早かったこと……そうして、その態度の見事であったこと……最早こっちの物……という風に軽く唇を噛んだまま、眉一つ動かさず、最新式大型拳銃の白光りする銃口を構えて毅然としている有様は、一個の拳銃と一挺の短刀とを以て我意の法律を貫徹して行く、野性亜米利加人そのままの気魄を遺憾なく発揮したものであった。

しかしこれに相対した女の態度も亦、たしかに歎美に値した。

女は、いつの間にか椅子を離れて、恰も相手の狙いを正しくしてやるように、電燈の側近く立っていた。そうして両手の指をしなやかに組んで観念した心を見せている。その影法師は大きく室の半分を区切っていて、ゴンクール氏の姿は、その中から浮き出したように見える。

ややあって軽いけれども底力のある英語がゴンクール氏の唇を洩れた。

「名を云え」

「……………」

女は答えなかった。ただ徐かに眼を上げて、鼻の先に静止している銃口越しにゴンクール氏の顔を見た。

ゴンクール氏の顔は見る見る緊張した。その皮膚は素焼の陶器のように、全く光沢を失って、物凄い、冷たい眼の光りばかりがハタハタと女を射た……。

何秒か……何世紀か……殆んど人間の力には堪えられぬ程の恐ろしい沈黙が、空しく室の中を流れて行った。