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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「……紫の……ハンカチ……」
という言葉が出かかって、そのまま咽喉にこびり付いてしまった。外に出たのはその口付きと呼吸だけであった。
少年はもう一度真赤になって微苦笑した。そうして今朝の通りの凜々しい声を出した。
「あれはカルロ・ナイン殿下から頂きました。藤波弁護士に父の遺言書を渡したという合図に使いました。日本政府の手でJ・I・Cが退治られなければ、僕等の手でやっつける覚悟だったんです」
私はもう驚く力がなくなったらしい。何だか急にがっかりしてしまって、ぶっ倒れそうな気だるさに襲われながらも、きょろきょろと左右の入口をかえり見た。
少年はその意味を覚ったらしく、直ぐに左側の扉を開いて、首をくくった自分の死骸を片手で軽々と外して来た。それは紫の紐で首を縛った空気入りの護謨人形で、少年が手品に使用したものを油絵具か何かで塗り直して扉の上の框に突込んだ白箸に引っかけたものらしかった。少年は、その白箸ごと抜いて来て、無気味な恰好の人形を私の眼の前にぶら下げて見せながら、玄関口の扉に向って心安げに叫んだ。
「……志免さん……お母さん。もうよござんすよ」
声に応じて待ち構えていたように右手の扉が開いた。