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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
あとを見送った私は、室に帰ると、死骸の始末も何も忘れたまま机の前の肘かけ椅子にどっかりと身体を落し込んだ。急にぼんやりとなって来た眼の前の空気を凝視しながら、太い溜息と一緒につぶやいた。
「……わから……なかった……」
そうしてうとうとと眼を閉じかけた。たまらなく睡くなって来たので……。
「あっはっはっはっはっはっ」
と志免警視が明るい声で笑い出した。矢張り死骸の事も忘れる位いい心持になっているらしく、私の真向いの椅子にどっかりと反り返りながら……、
「……わっはっはっはっ。流石の課長殿も一杯喰いましたね。はっはっ。しかし今度の事件は全く意外な事ばかりだったのです。第一ハドルスキーが樫尾大尉という事は、僕ばかりでなく、松平局長も二三日前まで知らなかったそうですからね。一方に、あの曲馬団をあれ程に保証した××大使が今になって急に、あんなものは知らないとあっさり突き離すだろうとは樫尾大尉も思わなかったそうです。……僕等は又僕等で、あの曲馬団で無頼漢どもが、日本の警察を紐育や市俄古あたりの腰抜け警察と間違えるような低級な連中ばかりだろうとは夢にも思いませんでしたからね。