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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
これは何かに驚いたためではないかと考えられるのであるが、しかしこの第三の鍵を掛けなかった失策は、その以前にボーイに大枚二十円を与えて口止めをしていたので大した失策にならずに済んだ。
……最後にこの女は、非常に注意深い性質でありながら、犯罪行為には慣れないと見えて、到る処に大きな犯跡を残している。その中でも指紋に関する知識はまだ一般に普及されていないから、ワニス塗りの扉に手を触れたのは咎めないとしても、油引きの廊下の左端の方を選って歩いたのは、如何にも馬鹿馬鹿しい不注意である。足跡を残すのはまだいいとしても、万一辷りたおれでもしたら、それこそ大変な事になったであろう。
……なお他殺という事は、この紳士の性質と行動を見ればわかる。この紳士が、ずっと以前に人気の荒い南部加州あたりで労働をしていたらしい事と、その趣味が余り高くない事は、その風采と、所持品と、強い酒精中毒であろうと推定される。それからその後に、最近まで引続いて長い間、生命がけの仕事をしていたことは、その所持しているピストルが、非常な旧式を使い狎らしたもので、且つ銃口の旋条が著しく磨滅しているのを見れば、容易にうなずかれる。