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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
私の言葉が終らないうちに轟刑事は、うなずきながら室の外へ辷り出た。その小走りの跫音が聞えなくなると室の中が急に森閑となった。窓の外をはるかに横切る電車の音ばかりが急に際立って近付いて来た。
厳粛な二三分が、室の中を流れて行った。
そのうちに階段を駈け上る跫音が聞えたと思う間もなく轟刑事が息を切らして這入って来た。
「お察しの通りです。午砲が聞えたら警察に自首して出ろ。その通りにしなければお前は生命が危い。そうしてもしその通りにしたならば妾がどこからか千円のお金を送ってやると云ってボーイの母親の所番地を聞いて行ったそうです」
「そうして又、気絶したかね」
「助けて下さいと云ってワイワイ泣き出しました」
「ハハハハハ。正直な奴だ。それじゃ今の命令は全部取消しだ」
「エッ」
と皆は又も電気に打たれたように固くなった。その驚きと疑問に充ち満ちた顔を見廻しながら私は冷やかに笑った。
「うっかりしていた。もう少しで犯人を取逃がすところだった……」
「……………」
「誰か最近の新聞で、横浜と、神戸と……いやいや東京ので沢山……今日の新聞を持っていませんか」
古木書記は弾かれたように両手をポケットに突込んで、今朝の東都日報を私の前に差出した。