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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
ことにあんな風に夜通し窓を明け放ってあります場合には、室の中の物全部が湿気を帯びる事になるのですから、絨毯の毛は一層早く旧態に返るのです。ですから紳士の足跡は泥で判然っても、女の足跡は残っていないのが当然なのです。支配人とボーイのは新しいからよくわかったのでしょう。……とにかくこの場は私に委せて頂きたい」
と云い棄て私はホテルを飛び出した。そうしてホテルの前の広場に立って今一度、二階の左から五ツ目の窓を振り返ってみると、そこには熱海検事の顔が出ていて、気遣わしそうに私を見送っていた。
これから先、私がどんな風に活躍したかという事実は、正直のところを云うと私としてはあんまり公表したくない話である。既に今まで述べて来た話の中でも、私は取り返しの付かない大きな見落しをやっているので、冷静な頭で読まれた諸君は最早、とっくと気が付いておられる事と思う。そうしてこの狭山という男は、課長とか何とか偉そうな肩書を振りまわしているが、案外だらしのないそそっかし屋だ。おまけに下らないところで威張ったり、名探偵を気取ったりして、恐ろしく気障な奴だ……とか何とか腹を立てておられる人が在るに違いないと思う。